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朝日新聞 社説 『米金融危機―拡大止める大胆な策を』

2008年7月15日(火)付

 低所得者向け住宅融資(サブプライムローン)の崩壊で始まった米国の金融不安が、第2段階に突入した。

 政府系住宅金融機関の連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディーマック)の経営不安が急浮上したのだ。

 どちらも米国の住宅金融と証券化金融の中核だ。ファニーメイは20世紀前半の大恐慌時代に発足した。第2次大戦後は優良な住宅ローンを銀行などから買い取り、これを担保に証券を発行する「証券化」という金融手法を生みだした。フレディーマックは70年にこれを補完する形で設立された。

 サブプライムとは一線を画していた2社の経営不安は、住宅相場が下げ止まらず、貸し倒れ不安が優良ローンへも広がったことを示している。

 2社は国有でも国営でもないが、政府の肝いりで誕生し、さまざまな政府支援を受けている。このため、発行する証券には政府の暗黙の保証があると市場で見なされ、2社で米国の住宅金融の半分にも関与している。その規模は約530兆円にものぼる

 市場経済の国にありながら、官・民二つの顔をもつあいまいさが2社の節度をこえた肥大化を許している、との批判が数年前から米国にあった。その問題点が、住宅ブームのなかで拡大していた嫌いがある。

 加えて、第1段階での不安を鎮めるため、2社が買い取るローンの対象を信用度が低いものへも拡大した。こうした一時しのぎの策が経営をさらに圧迫している。こうしたことから、2社の株価が先週急落した。

 市場の混乱に直面したポールソン財務長官は日曜日に緊急声明を発表し、2社への機動的な資金供給とともに、財政資金の投入にも初めて言及した。市場に追い込まれてのことだ。

 2社の発行する証券は世界中の金融機関が買っている。万が一にも破綻(はたん)すれば世界の金融システムが大混乱に陥り、ドル不安につながる恐れがある。それを防ぐため、米当局は2社の国有化も検討に加えつつ、断固たる措置をとらなければならない。

 納税者の資金を金融機関へ投入することに米国ではアレルギーが強いが、それは日本もバブル後の金融危機で経験したことだ。そのため日本の対策が後手にまわり、「小出しで遅すぎる」と海外からも批判された。それなのに米国は同じ道をたどっている。

 今回たとえ2社の危機をしのいでも、一般の金融機関へ経営不安が広がる第3段階の危機が避けられないかもしれない。住宅相場が下落を続けており、景気の悪化で一般企業も苦境に立ち始めているからだ。

 米国の危機は世界へ波及する。米当局は日本の経験に学び、先手をとって根本的な対策を立てる責任がある。

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