《寺島実郎が徹底解説》

2008年 5月28日 


「中国に急接近するロシアの脅威」

 資源バブルの追い風を受けて完全復活を果たし、欧米さえも脅かす存在となったロシアが向かう先はどこか。三井物産常務・戦略研究所所長の寺島実郎氏が徹底解説する。
(聞き手:『週刊ダイヤモンド』佐藤寛久)
寺島実郎氏
寺島実郎氏 撮影:加藤昌人

 なぜロシアが蘇ったか――。

 9・11(米国同時多発テロ)が起きて以降、米国、ロシア、中国はイスラム原理主義者の台頭に対する恐怖心を共有し、テロとの戦いで連携した。ロシアや中国は、米国が中央アジアに軍事基地を持つことさえ容認した。

 ロシアや中国にしてみれば、煮え湯を飲まされるに等しいことだが、ロシアもただでは転ばない。米国に協力する見返りとして、カネと技術を引き寄せ たのだ。ソ連崩壊以降、ロシアの石油生産量は設備老朽化により急低下していた。だが、米国の技術を導入したことで、石油生産量は再びぐんぐん伸び始めた。 昨年は世界1位のサウジアラビアと肩を並べる水準になったほどだ。

 石油だけではない。サハリン2に象徴されるように、米国や日本など西側の最新技術を導入して、天然ガスの産出力も急上昇している。石油と天然ガス を合わせた化石燃料(石炭は除く)は日産2086万バレル。いまやロシアは世界断トツの産出国になった。しかも資源高の追い風が吹いた。9.11直前の 2001年8月には、代表的な原油指標のWTIは1バレル27ドル25セントだった。それが約4倍の100ドルを超えた。

 その間、プーチンはエネルギー戦略を確立して、エネルギー産業を国家の管理下に置いた。“エネルギー帝国主義”という言葉が登場したほど、エネル ギーで蘇るロシアを鮮やかに演出して見せた。昨年末の外貨準備高は、中国、日本に次いで世界3位の4644億ドル。米国が約600億ドルであることを考え れば、いかにロシアが富める国になったかを痛感する。

 ロシアが近年、稼いだオイルマネーを投入し、力を入れているのがウラジオストクなど極東地域開発だ。12年に開かれるAPECウラジオストク総会を睨み、港湾、道路といったインフラに加え、観光客の受け入れ可能なホテル建設にも力を入れている。

 その背景には、欧露間に生まれている微妙な空気がある。

 ロシアが力をつけるにつれ、欧州はロシアが化石燃料の生殺与奪権を握ることに警戒感を深めている。「再生可能エネルギーの比重を2割に高める」 「原子力発電を見直す」という欧州の新エネルギー政策は、「ロシアに依存しなければ欧州は動かない状況を脱却しなければならない」という問題意識の表れだ。

 資源をいくら持っていたところで、供給先がなければ意味はない。そのためロシアには、エネルギーの供給先として、経済発展著しいアジアに近づかな ければならないという意識が生まれている。ロシアは欧州とアジアにまたがる唯一の「ユーラシア国家」だ。欧州に依存しなければ生きていけないロシアではな く、アジアに橋頭堡を築けば、欧州へのカウンターパートにもなる。

 台頭してきたロシアと中国の連携――上海協力機構――がユーラシア大陸を変えようとしている。当初は友好を深める機関と考えられていたが、米国の 中央アジア軍事基地を撤去するよう共同で要求するなど、昨今は俄然政治色を強めている。中央アジアを巻き込み、イランとインドがオブザーバー参加して、面 となって発言権を増している。「米国の一極支配は許さない」という、きわめてわかりやすい図式だ。ロシアと中国のあいだには、虚々実々の駆け引きがあり、 決して1枚岩ではないが、利害は一致している。

 この流れに取り囲まれた日本は、日米関係を軸にしながらも、ユーラシアを無視するわけにはいかない。大国の「ゲーム」のなかで、ロシア、中国との関係を考えていく必要があるだろう。

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