1993’11
★”トイレ”を考える
環境を語る前に知っておきたい、
汚水垂れ流し天国の現状

 「読者のみなさん、ごめんなさい。」と、私は、いま、平身低頭して謝りたい気持ちでいます。 というのは、本誌に1年以上もコラムを書いているのに、まだ自己紹介をしていなかったからです。迂濶でした、勘弁してください。そこで、今月はまず自己紹介をさせていただきます。
遅まきながらの自己紹介
 えーと、私は栃木県の南部、真岡市に住んでいます。真岡は「もおか」と読んでください。正確な住所は、真岡市並木町3−1−2。ここで生まれてから今年で47年になりました。
 現在の勤務先は近所のソフトハウス。私の仕事は、掃除と洗濯と食事つくりと接客。お客に食事をつくってあげて一緒に食べると、お客の気分はすっかりアットホーム、成約率もグーンとアップするのですねぇ、これが。
 というわけで、私、普段は会社にいますから、近くに来られることがありましたら、ぜひぜひ寄ってください。 あ、来るときは昼飯時に来てくださいネ、私の手料理をご馳走しますから。私って、料理をつくるのが好きなんです。というか、つくることは何でも好きで、子供は4人もつくりましたし、最近では便所をつくりました。そうだ、今月は、この便所づくりの話をして自己紹介ということにします。
立派なトイレをDIY!
 ひと月前まで私の会社の便所は汲み取り式でした。これを水洗便所にするのに、業者にたのむと200万円もかかってしまうというので、会社の有志がDIY方式でやろう! ということになりました。DIYとは、「ドゥ・イット・ユァセルフ」の略です。
 さて、水洗便所をつくるために私たちはどのような工事をしたか? しばらく私の苦労話を聞いてください。
 まず、私たちは、汲み取り式の便器をはずして、その穴をセメントで埋めて、水道の配管をして、水洗用の便器を取り付けました。便器は、お尻洗いやビデがついているピンク色の最新型です。 床を張り替え、照明器具を交換して、天井と壁を塗装しなおすと、トイレットの雰囲気は、ほとんどロマンチック・アンド・ゴージャズ。近所の人たちも、「よくもまあ立派な便所を素人がつくったものだ!」と感心して見学に来ました。
 次は外まわりの工事です。
 汲み取り式の便槽には、エアーポンプの配管をして「ばっ気槽」としました。そして台所の水や洗濯の水がすべてトイレの槽に流れ込むようにしました。これで汲み取り式の便槽が立派な「合併槽」になったわけです。
 これらの作業は、正直いって、決して清潔な仕事ではありません。臭くて汚い作業でした。けれども、工夫と知恵を出し合う会社の仲間たちとの共同作業は、お互いを知る絶好の機会でした。切磋琢磨のなかで、平気で汚い仕事をする根性も生まれました。うつくしい話です。
 以上、社会学的にいうと、現代の日本社会に決定的に欠けている“共同作業の場”(モノをつくるために汗をかきながら働く仲間社会)が、会社のなかにしっかりと息づきはじめたわけです。
”一見オガクズ”のパワー
 さて、これからが本日の本論ともいうべき話です。
 先ほど、汲み取り式の便槽に“し尿”のほか台所や洗濯の水が
全て流れ込む、と書きました。このままだと便槽はたちまちのうちに満杯になり、あふれてしまいます。わが社のスタッフは、この問題をどう解決したのでしょうか?
 答は、『ホーラ剤』という商品を使って全ての排水を処理することにしました。この『ホーラ剤』、一見するとタダのオガクズ。しかし、腐敗する成分を完璧に取り除いてあるため、いっさい腐ることはありません。この『ホーラ剤』を地面に穴を掘って、びっしりと埋めます。このなかにトイレの水を流し込むと、あ〜らあら不思議、大便も小便も洗濯石鹸水も消えてしまうのであります。
 この秘密は、『ホーラ剤』のなかで自然に大繁殖するバクテリアにあります。このバクテリア、『ホーラ剤』のなかの住み心地がいいのか、もの凄い大食漢になります。だから、台所から出る生ゴミも、この『ホーラ剤』のなかに入れ、よくかき混ぜておくと1〜2日で消滅してしまうのです。
 でも、よく考えてみると、こんなことは不思議でもなんでもない。たとえば庭の隅に穴を掘って生ゴミを棄てておくと数日で消えてしまうし、畑にまいた大量の下肥(しもごえ)も数日後には土壌と同化してしまうのだから。「下肥」って何かって?知らない人がいるんだすねぇ、汲み取り式トイレのなかの内容物のことですよ。
下水処理の”日常茶飯事”
 ともかくこの『ホーラ剤』のおかげでわが社の社屋から出る排水は、完璧に浄化されて放出されるようになりました。 いままではというと、ダラダラの垂れ流し。これで環境問題を論じていたのだから、恥ずかしくなってしまいます。
 炊事(米とぎ、皿洗い、スープや味噌汁の残り、古くなった牛乳)、洗濯、洗面、手洗い、風呂、掃除、洗車、水洗便所、…家庭からの排水というのは、BOD(生物学的酸素要求量)も高いし、全体では大変な量になる。 しかも、ほとんどの家庭が垂れ流し状態。これでは川も海も汚れるわけです。
 え、 うちは下水道に排水しているから大丈夫ですって? …冗談ではありません。たとえば私の町の下水処理場。見かけは凄く立派なのに処理能力は最低で、しかも満杯。だから職員たちは、雨が降って川が増水するとまったく処理していない汚水を川に流してしまう。 また、下水処理場から“余剰汚泥”というヘドロが出るが、これも処理しきれなくて近くの山野に平気で不法投棄してしまう。
 こんなことを言うと、真岡市役所の職員は声をそろえて「ウソだッ!」と言うでしょうが、私には私のネットワークがあり、証拠をにぎっています。
 こんなことって、日本中の下水処理場で日常茶飯事なのです。
 工場も悪いですな。先日、ある工場をこっそりと偵察してきましたが、汚泥を吸着ろ過させる活性炭タワーの流量計のメーターの針はゼロを指していました。
 環境課や保健所が排水の抜取り検査に来るときだけ高価な活性炭タワーに汚水を通すというじゃありませんか。 役人も悪いですぞ、 「本日、抜取り検査に行きます」なんていう電話をしては駄目ですよ、 まったく。
 ともかく上から下まで汚水の垂れ流し天国ニッポン。この国を世界に紹介するとしたら、いったい何と言って紹介したらいいのでしょう? 私みたいに1年以上も自己紹介なしで過ごす、なんてわけにはいきませんからね、細川さん!

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